ポリッシュの工夫で“仕上がり安定&時短” ─ 最近の試行錯誤

モスアクアマリンの研磨を進めていたとき、手応えのあるポリッシュができました。

傷が出にくく、仕上がりも安定していて、いつもよりスムーズに仕上げまでたどり着けた印象です。
試してみたのは、ダイヤモンドパウダーの使い方を少し変えてみるという、ごくシンプルな工夫でした。
でもそれが、長く感じていた違和感をすっと解消してくれるような感触がありました。

傷が出やすい、という悩み

ポリッシュ中に傷が出るという悩みは、以前から続いていました。
特に大きめのファセットを磨くときは、面全体を仕上げるまでに時間がかかり、その間にラップ上の研磨力が落ちてしまうことがあります。

そこでパウダーを追加するのですが、それがうまくなじまず、新たな傷の原因になってしまうこともありました。
「あと少し」と思って、研磨力が落ちたまま作業を続けてしまうと、それがかえって傷の原因になることも。

変えてみたこと

海外の研磨動画を見ていて気になったのが、同じBA5Tラップを使っているのに、ダイヤモンドパウダーの量がずいぶん違っていたことでした。

最初は「そんなに使って大丈夫?」と半信半疑でしたが、あとから「これがポイントなのかもしれない」と思うようになり、実際に試してみることに。

具体的には、パウダーの量を10倍ほどに増やし、サファイアを使ってオイルと混ぜてから、ラップ全体に広げるという方法です。
磨くスピードは少し落ちたものの、途中でパウダーを塗り直す必要がほとんどなくなり、傷も出にくくなって、仕上がりがとても安定しました。

アクアマリン原石のクローズアップ。淡い水色の中にフロスト状の質感が見える。

このルースの元になった原石。淡い水色とインクルージョンの入り方が、この時点でもよく見えています。

正面から見たアクアマリンの完成ルース。ファセットと表面のツヤがよくわかる。

完成したルースの正面。淡い水色の中に、内包物の広がりが印象的に浮かびます。

納得につながった資料との出会い

この方法のヒントになったのは、動画とある技術資料でした。
以前から、海外のカッターと国内のラップの説明で話が噛み合わないなと感じていたのですが、ラップの素材や砥粒の動き方が違うという前提の違いがあることがわかって、すっとつながるところがありました。

資料を読んだあとには、BA5Tラップに薄く塗ったゾーンと、多めに塗ったゾーンを作って使い分けるという方法も試してみたところ、これもいい感触が得られました。

少しずつですが、ポリッシュの安定感は確実に上がってきているように思います。

ポリッシュ中のラップ盤。白く広がるダイヤモンドパウダーが印象的。

100kパウダーを多めに塗布したラップ。広い範囲に行き渡らせて、安定した磨きにつなげました。

今回の石について

このモスアクアマリンは、透明感のある淡い水色の中に、フロストのようなインクルージョンが全体に広がっています。
淡雪のようにも見える独特の表情があり、どこか静かでやさしい印象の石です。

今回は、Marco Voltoliniの「Fiorello 80」を選んでカットしました。
屈折率の低い石にも合うよう設計されたこのデザインは、繊細なファセット構成によって、やわらかい光を穏やかに動かしてくれます。
ファセットダイアグラムはこちら

斜め後ろから見たアクアマリンの完成ルース。パビリオンの輝きがやわらかく映っている。

斜めから見たルースの一枚。ファセット全体に広がる光沢と質感が、やさしく浮かび上がります。

見えない工夫が、仕上がりに効いてくる

ポリッシュは工程としては最後の仕上げですが、石の印象や耐久性にも影響する、大切なプロセスです。

表面の光沢や端のシャープさが出るかどうか。
わずかな傷が残るかどうか。
仕上がりの良さには、「丁寧に磨いた」ことに加えて、その過程で積み重ねてきた工夫が表れていると感じます。

今回のモスアクアマリンも、そうした工夫のひとつひとつが表れた一石になりました。

関連商品

今回ご紹介したモスアクアマリン “Fiorello 80” は、以下のページでご覧いただけます。
https://www.raralab.shop/product/aquamarine-06ct-fiorello-80/115

参考資料

撮影機材

ただいま調整中!動画もお休みしており、ご不便をおかけします。

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