鮮やかな色を生む、ベリリウム拡散処理

鮮やかな色を求めて

今回ご紹介するのは、オレンジ色が美しいサファイアです。原石の段階で色の鮮やかさに惹かれ、選んだ石たちをカットしました。

サファイアの色には、天然のものと、人の工夫によって引き出されたものがあります。そのひとつが、ベリリウム拡散処理と呼ばれる技術です。

ベリリウム拡散処理とは?

ベリリウム拡散処理は、サファイアを高温で加熱しながら、ベリリウムという元素を石の内部に取り込ませることで、色を変化させる技術です。

この処理によって、次のような色が生まれます。

  • オレンジからピンク系
  • 鮮やかな黄色
  • 明るいブルー

2000年代初めには、タイを中心に、鮮やかなオレンジ色のサファイアが市場に出回り、当時の鑑別機関でも大きな話題となりました。

実は、このベリリウム拡散処理は、意図して開発されたものではありません。タイの加熱工場でサファイアを加熱する際に、偶然クリソベリル(ベリリウムを含む鉱物)が混じり、その成分がサファイアに入り込んだことで、鮮やかな色が生まれたのが始まりと伝えられています。「偶然の発見が、新たな色の可能性を広げた」といわれています。

ベリリウム拡散処理によって、これまで得られなかった色の表現が可能になった一方で、天然無処理のサファイアと見た目が似ることから、処理の有無を明確にする必要があります。

また、ベリリウム拡散処理が施されたサファイアは、鮮やかな色合いを楽しめる一方で、天然無処理のものに比べて価格は抑えられる傾向があります。

ソーティング結果に、思わぬコメント

アメリカの信頼できる業者さんから、「パパラチアカラー」として販売されていたタンザニア産サファイア原石を仕入れました。この原石は、パパラチアにしてはややオレンジが強めでしたが、色が美しく、「カットでピンクを引き出せるかもしれない」と考えました。

この業者さんは、ベリリウム拡散処理の可能性がある原石にはその旨を記載する方針でしたが、今回の原石には特に記載がありませんでした。

カット後、日独宝石研究所にソーティングを依頼したところ、「拡散加熱処理についてはより高度な分析を要します」というコメントが添えられました。

このタンザニア産サファイアは、すでに販売済みとなりましたが、カットや色合いの詳細は、引き続き商品ページでご覧いただけます。

🔗 タンザニア産サファイア 0.242ct "Asscher Cut"

また、同じロットの原石がいくつか手元にあり、今後カットしてご紹介できたらと考えています。

ウンバ産サファイアも検査へ

今回出品したウンバ産サファイアは、アフリカの業者さんから仕入れた原石の中から選んだものです。

手元に届いたとき、非常に鮮やかな色合いだったため、ソーティング依頼時に「もしベリリウム拡散処理の可能性があれば、追加検査もお願いします」と伝えました。

結果として、このウンバ産サファイアには、ベリリウム拡散処理に関する特別なコメントは付されませんでした。
タンザニア産サファイアと色合いはよく似ていましたが、「色を見ただけでは処理の有無はわからない」と改めて感じさせられました。検査を通して、確かな情報をお届けすることの大切さを実感します。

🔗 ウンバ産サファイア 0.256ct “Square Step Barion”

後日談:コメントの意味を確認してみました

後日、「拡散処理についてはより高度な分析を要します」というコメントについて、日独宝石研究所に確認しました。

このコメントは、色合いやインクルージョンの様子、スペクトルなどを総合的に判断した結果として付されるものであり、単に色が鮮やかだからといって一律に記載されるわけではないとのことでした。

なお、同時期に依頼したウンバ産サファイアには同様のコメントは付されていませんでしたが、これは「石ごとに個別に判断しているため」との説明をいただいています。

検査を行わない限り、ベリリウム拡散処理の有無を断定することはできない――。
今回のやりとりを通して、その難しさを改めて実感しました。

知って選ぶ、石の楽しさ

サファイアには、自然が育んだ色も、人の工夫で引き出された色もあります。どちらにも、その石だけの魅力があります。

私たちは、できるだけ透明な情報をお届けしながら、石と出会う楽しさをお手伝いしたいと考えています。知ることで、選ぶ楽しさはもっと広がります。

撮影機材

ただいま調整中!

今回の内容とは少し離れますが、撮影の合間に見に行った夜の藤の写真を一枚。
静かな雰囲気に、よい気分転換になりました。

Next
Next

ポリッシュの工夫で“仕上がり安定&時短” ─ 最近の試行錯誤