角度の違いで、印象も変わる - ブリリアントカット3種の比較

たまたまUSFGのFacebookグループで、「サファイア向けのSRBを教えて」という投稿があり、いろいろな人が自分のお気に入りのデザインをシェアしているのを目にしました。
そのやりとりがとても楽しそうで、自分でも試してみたくなり、好みに近い設計をいくつか選んでカットしてみました。

最初は「どれが好きか」を見極めるための試みでしたが、実際にカットしてみると、角度の違いが思っていた以上に印象を左右することに気づかされました。

今回取り上げるのは、いずれもラウンド系のブリリアントカットですが、クラウンとパビリオンの角度が少しずつ違います。
どれも著名なファセット・デザイナーがモンタナサファイアなどに使っている設計をもとにしており、それぞれに異なる特徴が見えてきました。

設計と印象の関係:3つのブリリアントカット

今回比較した3点はすべてラウンドブリリアント系ですが、クラウン・パビリオンの角度設計が異なります。
いずれも、ラウンドブリリアントカットをベースにした設計で、それぞれの角度や仕上がりに個性があります。
各デザインは、経験豊富なファセット・デザイナーが実際に使っている構成をもとに選びました。

SRB(JP Szymanski)

ファセット・デザイナー:JP Szymanski
USFGのFacebookグループで、「この角度でモンタナサファイアを長くカットしてきた」とコメントしている通り、経験に基づいた設計といえそうです。
クラウンとパビリオンがともにやや浅めで、中央テーブル付近に濃い色が集まり、周囲はやや明るめ。色そのものの出方はしっかり濃い印象ですが、細かくキラキラと輝くため、全体としては明るく華やかな見た目です。

SRB(Sean O'Neil)

ファセット・デザイナー:Sean O'Neil
USFGのFacebookグループで、「ヘッドシャドウの見え方が美しいので気に入っている」と語っており、パターンの出方や視覚効果を重視した設計であることがわかります。
幾何学パターンがくっきりと出るデザインで、キラキラ感は控えめですが、繊細な輝き方でやや落ち着いた雰囲気。
カット時、最初はラウンドガードルで試しましたが、ファセット位置を揃えるのが難しく、幾何学模様が崩れてしまいました。ファセットガードルに変更することで、より整った仕上がりに。

Oliveira’s Garnet

ファセット・デザイナー:Arya Akhavan
デザイナー自身によると、もともとはモンタナガーネット用に設計したものですが、モンタナサファイアやオーストラリア産サファイアにも適しているとのことです。
構造はSRBに近く、比較対象として試してみました。
キラキラ感は控えめで、輝きはやわらか。角度による色の変化が少なく、どの角度からも安定した発色が得られました。
デザインの特性上、ガードルをラウンドにするとクラウンのバランスが崩れやすいため、今後はファセットガードルで再挑戦する予定です。今回カットした石にはクラックにつながる可能性のあるインクルージョンが見られたため、出品は見送りました。

研磨時の工夫と観察ポイント

わずかな角度の違いで、完成したルースの輝きや色の見え方が大きく変わることに、あらためて驚かされました。
数字としては数度の差しかないのに、光のキラキラ感やテーブル中央の濃さ、全体のまとまり方に違いがはっきりと出ます。

また、ジュエリーに使いやすいようにラウンドガードルで仕上げた石では、ミートポイントの位置を正確に揃えるのが難しく、幾何学パターンが崩れてしまったものもありました。
ガードルをファセットに変更したところ、配置の目安が取りやすくなり、模様も整いました。
まだまだ自分の慣れや工夫が必要だと感じる場面でした。

もともとは「自分の好みに合う設計を探す」目的で比較を始めたのですが、実際にカットしてみると、原石の色の濃淡によって、合うデザインが変わることもあるように思いました。
さらに、その時々の気分や目指したい印象によって、「これが好き」と感じるデザインも少しずつ変わっていくように感じています。

一般的なSRBの構造について

ブリリアントカットは、クラウン(上面)とパビリオン(下面)に並ぶ複数のファセットが、光を効率的に反射させる構造になっています。

今回比較した3点はいずれもこの構造をベースにしていますが、クラウン・パビリオンの角度やファセットの割合に違いがあります。

クラウン側(上面)

  • C1:ブレークファセット(Break Facets) – ガードル付近の細かい面。輝きの繊細さに関与。
  • C2:メインファセット(Main Facets) – 輝きの強さや印象を左右する主ファセット。
  • C3:スターファセット(Star Facets) – テーブル周囲の小さな三角形。中心部に変化をもたらす。

パビリオン側(下面)

  • P1:ブレークファセット(Break Facets) – ガードル近くの補助ファセット。
  • P2:メインファセット(Main Facets) – キュレットへ向かう主ファセット。反射に重要。

※「メインファセット」「ブレークファセット」といった呼び方は、宝石研磨の現場でよく使われている業界用語です。図では便宜的にC1〜C3・P1〜P2と表記しています。

参考:今回使用した角度データ一覧

デザイン名 クラウン角(C1 / C2 / C3) パビリオン角(P1 / P2)
SRB(JP Szymanski) 42.0° / 36.0° / 21.0° 42.0° / 40.0°
SRB(Sean O'Neil) 44.5° / 37.0° / 25.0° 43.0° / 41.8°
Oliveira’s Garnet 35.0° / 29.0° / 23.0° 40.0° / 37.0°

出品情報と今後の予定

今回ご紹介した3種類のうち、以下の3点を出品しています。
それぞれの見た目の違いを、ぜひ商品ページでもご確認いただけたら嬉しいです。

それぞれの見た目の違いを、ぜひ商品ページでもご確認いただけたら嬉しいです。

Oliveira’s Garnetは今回は出品していませんが、ファセットガードルで再挑戦することで、このデザインの良さをもっと活かせそうな手応えを感じています。

撮影機材

ただいま調整中!撮影にはLEDを使用しています。

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